川上の作品を生み出すパッションの源泉は、単純明快に自分が好きなものや彼の周りにいて気にかかるもの、記憶にあることがらなどです。動物、歌手、俳優、プロレスラーなど彼のインスピレーションで、描く題材が次々と決まっていきます。
彼の作品の中には衒いや外連がないばかりか、自己顕示欲さえ見当たりません。描きたい情念が湧き上がったから描きました、というただ一つの心の響きしかそこにはありません。作品制作過程で社会の汚れた沈殿物が全て浄化されてしまうのか、作品観賞後には楽しさと青空を仰ぎ見た時のような清々した気持ち良さが残ります。

対して、中村ヒカルの作品は精神的に苦痛を伴った過去の体験や社会からの疎外感、絶望感、そして、空想による現実逃避という、常に外的要因によって争う自己の心の痛みに起因しています。
中村は、自分の殻に閉じこもっていた幼少期の体験や絶望的な気持ち、孤独で行き場のない感情など、ネガティブな心の状況を、自分の中の空想を働かせ、手で土を練り焼成させるという手作業の制作過程でポジティブなイメージに変えていったといいます。
中村の作品《わたしをみているせかい、わたしがみようとしているせかい》（2005年）という直径70cm余りもある陶土製の靴の作品があります。
彼女は学生の頃、対面者に顔を向けて話すことができず、常に下を向き、人の足元の靴ばかり見ていたといいます。彼女の中では、対面した人物のイメージはその人物が履いている靴そのものでした。
感情の動きや、空想の持つ温かみを曲線的な形で感覚的に表現する為に、手の動きをそのまま形にできる焼き物が中村の気持ちを一番安心させる。その手びねり技法で下から上、内側から外側に向って作る感情を伴った有機的な形は、彼女の幼少期から今に至るまでの間に空想を通して思い描いた理想郷や、身近にある植物などの有機物の造形に由来しています。空想の有機物は、生きることに対する根源的なエネルギーから生まれた形だと中村は考えています。

一方、他者からの視線が存在せず自己完結している川上建次の作品は、ただただ魂の自由を謳歌しているように見えます。しかし彼は、幼児期に脳性麻痺が判明し、四肢機能障害と言語機能喪失という身体的事情があり、実際の作品制作作業は困難を極めています。
彼が希望の園に通園するようになり、その絵画の才能を多くに認められるようになったのは、既に40代も半ば。それにも関わらず、彼の作品中の動物や人物は快活で、特に目の動きの中にユーモアや溌剌とした楽しさを感じます。また、荒々しい筆跡が残る原色を多く使用した大胆な色使いの作品は、まるで瞬間を削り取ったかのような鮮烈な印象を人に与えます。彼の作品から溢れ出るポジティブな迫力は圧巻。作品制作時の困難さをその作品の中に見出すことは到底できません。

私たちが人生の中で立ち向かう残酷で時には容赦ない現実や障害は、確かに生きていく上での重荷ではあります。しかし、抵抗する力が大きければ大きいほど、それを跳ね返す時の威力も強いのです。生きていく中で生じる負の力を意志のエネルギーによって芸術作品に昇華させることは可能であると彼らの作品は教えてくれます。

協力：まつさかチャレンジドプレイス希望の園／社会福祉法人グロー（GLOW）

※2/7（日）までの期間はアポイント制での入場となります。ご希望の方は事前にメールにて予約をお願いいたします。

会場・アクセス

LOAF（Laboratory of Art and Form）
〒602-8034京都市上京区米屋町286-13
【地下鉄】烏丸線「丸太町」駅下車、徒歩約11分
【市バス】「堀川丸太町」下車、徒歩約4分